2002年12月号
36人PC大乱戦
今から10年ほど昔の事である。 あの頃は私も若かった。つまりそれはどういう事かというと、 「常 軌 を 逸 し て い た」 わけである。 若者は常に暴走する。 重い元素の原子核が分裂し、中性子が飛び出すように。ただひたすらに、まっすぐに。中性子は純粋なのである。プラスだのマイナスだのという電荷には囚われることなく、盗んだバイクで走りだすのだ。 これが青春の証でなくてなんだというのだ。 そして飛び出した中性子は、次の重い原子に激突し、そいつを割る。さらに中性子が飛び出す。さらに──さらに──さらに── ようするに 私はいつの間にか巻き込まれていたというわけだ。 我々は、ぐつぐつと煮える魔女の鍋の中(二次冷却水)にどっぷりつかり、大量の食料を食い散らかしながら(脳は人間の器官の中でもっともエネルギーを浪費する。ただいたずらに)自分たちが何をなすべきかを議論したのである。 「R P G の た め に」 いや、正直言おう。そこまで狂ってはいなかった。広島県民には良い意味でも悪い意味でもバランス感覚があり暴走していても理性のヒモが千切れる事はめったにないのである。 我々はただ祭りをやりたかったのだ。アメリカじゃあ、もっとでかい何千人っていう祭りが行われていたのだが知識もノウハウもない若造にそんなでかい花火があげられるはずもない。 ようは自分たちが愉快で、まあ、他人に「あれやったんだぜ」って威張れるような、そんなイベントを開催しようじゃないか、とまあ方向性はだいだいそんな感じで決まった。 この時点での私の役目はあまりたいしたものではない。私はたいていの事は愉快がってしまえる人間なので、げらげら笑いながらそこらをぶらついていたのである。イベントの企画や進行はもっと真面目な人間がやってくれる事になった。 結果として決まったのは、6つのテーブルで同じシナリオをプレイしようというものであった。 まあ、これだけならどうという事はない。だがほとばしる青春のパトスはそれだけでは満足せずに、この6つのテーブルを1つのダンジョンでリンクしようとしたのである。 つまりこうだ。 6人からなる6つのPCのパーティーが、別々の入り口からダンジョンに入る。この時点では、それぞれの6つのテーブルでは各マスターがついて普通にRPGを行う。 普通でなくなるのは、この先である。 各パーティーがダンジョンのどこにいるかは逐次グランドマスターと呼ばれる統括者のところへ連絡がいく仕組みになっていた。そして、複数のパーティーが同時に同じ場所に到達した時。 プレイヤーは自分のテーブルを離れて中央に集まり、直接顔を合わせる事になるのである。 そこで挨拶するもよし、何か情報やアイテムを交換するもよし。 普通ならそう考えるであろう。 しかし我々はそれでは 「面 白 く な い」 と考えてしまった。 各パーティーはライバルであり、ダンジョンを制覇して勝利できるのは1パーティーのみという勝利条件を設定したのである。つまりは切り捨てごめん。パーティーアタック万々歳。死して屍拾う者なし。そういうシナリオにしてしまったのである。 もちろん、各パーティーの戦闘力などそんなに大差はない。まじめに正面から殴り合いをすれば互いにただではすまない。それくらいならシナリオ達成に力を注ぐのが正しいプレイというものである。 だから、まあ、ライバル関係というのは緊張感というスパイスにはなっても、実際にはゲーム進行に影響を与える事はなかろう。 「そんな甘い事を考えたのはどこのどいつだ馬鹿野郎」 プレイ開始後2時間。 だらだらと脂汗を流しながら事態を見守る私がそこにいた。 場所はダンジョン内の大広間。 そこに、6パーティー全員、36人のPCが集合していたのである。 36人のPCには36人のプレイヤーがつきものである。 それなりに広い会場ではあったが、何せマケドニアファランクスのごとき密集陣形であるから暑苦しいことこの上ない。 最初は、どうという事のない同盟だった。 あるパーティーが、別のパーティーと組んだのである。 「2対1で、他のパーティーを襲えば、楽勝だ」 そしてダンジョン内の往来の中心ともいうべき大広間に陣取ったのだ。 しかし、いかにも臨戦態勢で獲物を待ちかまえる2組のパーティーを見て、やってきたパーティーがおいそれと近づくはずもない。警戒し、大広間をはさんで対峙する事になった。 繰り返す。大広間はダンジョン内の往来の中心であった。 残りのパーティーもいつしか大広間に集結し、気が付けば3対3、18人対18人の図式ができあがっていたのである。 俺 の せ い じ ゃ な い しばしの間、にらみあいが続いた。 思えば、東西冷戦時代というのもこんな感じではなかっただろうか。 そして一触即発の事態は、一人のシーフによって破られた。 「往 生 せ ぇ や あ あ!!」 魔法で透明になったシーフが、敵陣営の魔法使いに一撃必殺の不意打ちをくらわせたのである。まず、最も強力な敵を倒す。兵法の常道である。 ちなみに、この一撃で死亡した魔法使いのいまわの台詞は 「せめて1回でいいから魔法を使いたかった」 であった。合掌。なむなむ。 とにかく、その後の混戦状態は見物であった。シーフによる奇襲攻撃を行った陣営は、すぐさま加速の魔法を使って短期決戦を挑む。まるで真珠湾奇襲をかけた日本軍のようである。もう一方の陣営はさすがに防戦に開けた地形は不利と判断し、通路へと退却。そこへ追撃をかける敵軍を扉へのロックの呪文によって分断、狭い隘路で戦士がパリーをしている間に後方で戦力を立て直す。 ずるずると消耗戦に引きずり込まれた攻撃側陣営の中には「勝機は去った」とばかりに立ち去るメンバーが出たりと、しょせんは利で結ばれた同盟のもろさが露見する一幕もあった。 ともあれ、多数の死傷者を出した戦いは、どちらが勝利したともつかぬまま、いつしか終結したのである。 戦 い は 常 に む な し い ぼろぼろになったPC達の背中を見送る私の胸に、そんな思いが去来したのであった。 今は昔の物語である。 ■銅大のRPGてんやわんやhttp://www.trpg.net/user/akagane/