2003年01月号

小説『富山ころころ』

特集: 単発記事

* 注1: ひっじょーにバカネタです(笑)。
* 注2: 東京ミュウミュウ知らない人にはなにがかにやら。
* 注3: 富山県は、TRPG.NETのホストサーバーがあるところです。

§第1章

 コンベンションで収録された同人TRPG『富山ころころ』のリプレイより――

■登場人物紹介

□竜洞二十重(りゅうどう はたえ)
 絶滅寸前の、最初のTRPG、D&D 1stを守るべく選ばれた女の子。額に20面ダイスの形の痣がある。昔ながらのダンジョンシナリオをこよなく愛するが、それゆえアドリブになると、慌ててミスを連発。だが、それでもめげずにDMをこなす彼女のことを、仲間は暖かく見守っている。
 マンチキンから、絶滅寸前のTRPGを守る富山ころころのリーダー的存在。

□六木旅子(むつき りょうこ)
 トラベラーを守る女の子。お嬢様で、いつも、二十重とは口喧嘩が耐えないが、それは友情の裏返しでもある。
 少々データ主義に陥りがちなのがたまにきずだが、そのぶん、メガクレジット艦隊で鍛えた、卓越した暗算能力は伊達ではない。トラベラーがすきなためなのか、はたまた他の要因か。やたらとSFにはまりつづけている。お気に入りは『禅銃』とのこと。

□十部聖(とべ きよみ)
 ワースブレイドを守る女の子。おとなしそうなメガネっ娘。三つ網のお下げが特徴的。読書が好きで、中でもソノラマのワース1092がお気に入り。ガルン=ストラにはまっている。
 シナリオは、普段の彼女からは想像も出ないくらい熱い展開と勢いでもっていく。アドリブ上手で、よく竜洞からの相談を受けている。

□双月八重子(そうげつ やえこ)
 ダブルムーン伝説を守る女の子。背が小さくやたらと活発で、身振り手振りを交えてのアクティブなマスタリングはノリやテンポがよく、意外と人気が高い。
 典型的なムードメーカー。
 実は、演劇部にも所属している。それゆえ、NPCの演じ方も一級品。

□百瀬並江(ももせ なみえ)
 ベーシックロールプレイを守る女の子。
 このシステムを使っているなら、どんなゲームでもプレイをこなす万能派。
 RQからCoC、はてはストームブリンガーまでも自在にマスターをこなし、CoCにRQのルールを持ち込んでのプレイも得意とし、ワールドのクロスオーバーも平気で行なうつわもの。
 クールに、淡々とマスターをこなす。
 ホラーが苦手で、自分がCoCのマスターをするときは別段気にしないが、他人がGMすると、途端に怖がるという可愛らしい一面も。


竜洞:「みなさん、よく集まってくれました~」と言って、皆の前に登場しますよ。こぉ、能天気に笑いながら。場所はそうですねぇ、炎天下の駅前っていうことで(笑)。

GM:OK。駅前は日曜ということもあって、人が溢れてるね。キミはそんな中、目立つパッションピンク系の服を着て立っているわけだ。

竜洞:うんうん。そういうこと(笑)。

六木:それはちょっと、かちんとくるなぁ(笑) 特に能天気なあたり。こっちは、休みによばれたっていうのに。
「なんですの? 一体」
 とか言って、むすっとしながら現れよう。トラベラーのルールがしこたま詰まったトランクを引きながら現れるんですよ(笑)。

双月:「そうだよ~、なにもこんなときに呼び出さなくてもいいでしょう?」私は、デイバックを背負って出てきましょう。私のもってるルールはダブルムーン伝説なので、軽いのです(笑) 念のためのボードゲームやカードゲームも忘れません(笑)。

十部:このままじゃ、竜洞ちゃんがちょっと悪役になっちゃいますね(笑) じゃあ、僕は両手で鞄を重そうに持ちながらあらわれてこういいます。
「まあまあ、皆さん。そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。大体皆さん、今日は誰もコンベンションの臨時マスターしなくていいんでしょう? それなら、竜洞さんの相談にのってあげるのもいいじゃありませんか」

百瀬:私は、冷静に竜洞の後ろで立って待ってたんです。ベーシックロールプレイを全部持ってるから重い重い(一同爆笑) で、ため息つきながら、
「そんなことはどうでもいい。早く喫茶店に入らないか?」
 と、黒い服を着ている私は提案するのです。

GM:黒かよっ!(ノリ突っ込み)

百瀬:黒です(同意) いつもどおり平然としてるから暑そうに見えないし、汗一つかいてない。それでも、暑いんです。

竜洞:唐突に後ろから声を掛けられて、びっくりするのです。
「はわっ! も、百瀬さんでしたかぁ……じゃあ、あそこの喫茶店なんてどうです?」
 とか言って指差した先はスタバ(笑)。

GM:OK。じゃあ、とりあえず、場面はスタバに移るってことで。時間はちょうどお昼だから、昼ご飯にしよう。近くに、美味しいラーメン屋があるから、そこにいくといいよ。


§第2章

 コンベンション会場である地区センターのそばにある、割とうまいラーメン屋にて――


「お前はいいよなぁ。随分楽しそうで」
 竜洞役のプレイヤーは、コンベンションの昼休み時間と一緒に、ラーメン屋に訪れ昼食をとっていた。妙にマニアックな同人TRPGのセッションに参加したものだから、少々投槍に進めようと考えていたのだが、思いのほかGMがあたりだったので、存外楽しめていることに満足していた。
 対して、テーブルを挟んで向かいに座り、ラーメンを啜っている友人の色には、苦悩の色が見て取れる。コンベンションでは滅多に見られないルーンクエストのグローランサセッションだっただけに、非常に楽しみにしていたのだが、どうやら外れだったらしい。
「ああ、でもあれだよ。爪木(つまぎ)みたいなプレイヤーにはむかないよ。だってお前あれじゃん。セラムンとかそっち系のアニメきらいじゃん。俺がやってるゲームって、まさにそれ系だから、まず爪木は楽しめないと思うよ。まあ、ルーンクエストでよかったんでないの?」
「いつもならそうなんだけどさぁ。正直、今日ばかりは浦畑と一緒に遊べばよかったって後悔してるよ」
「なんでさ」
 竜洞役のプレイヤー――浦畑は、ずずっと音を立てて、味噌バターラーメンを食べる。確かに今回、彼は同人TRPGという100%外れのようなゲームを選んだ。
 まあ、そのテーブルに参加したのはただの気まぐれだったのだが、意外としっかりとしているゲームであるのと、製作者であるGMがこのTRPGを、どうすればいいシナリオになるのかよく理解しているため、想像以上に遊べるゲームになっていたのである。
 このように、思わぬヒットというものがあるからコンベンションはやめられない。
「ひっどいプレイヤーがいるんだよ。なにかってぇと、すぐにルールの間違い突っ込んでくるしさぁ」
 憤懣やるかたなし、といった感じで爪木は訴えた。
「普通のマンチならまだいいんだけどさ。かなりのマンチなものだから最悪だよ……おまけにやたらとルールに細かいし。マスター、皆を楽しませようって張り切ってたのに、あれじゃあなぁ。なにかっていうと、ルールを細かく引き出してここがちがうとか、あれがどうだとかって散々さ。他のプレイヤーもげっそりしてるし。もうあの人、GMしないんじゃないかなぁ」
「まじかよ……それはひどすぎるって」
「正直、俺もコンベ、もういいかなって……」
「うわ……」
 友人の台詞に絶句した。自分をコンベンションに誘ってくれたのは彼だったはずだ。
 なによりコンベンションへの情熱に溢れ、TRPGを楽しんでいた友人。
 見たこともない人とのプレイを、楽しんでいた彼。
 そんな人間をも、コンベンション嫌いにしてしまうほどのマンチキン。
「まあ、とりあえず最後までやってみるよ」
 友人は、疲れた顔で呟くように言った。


§第3章

 コンベンション会場、大会議室。昼休み後、RQのテーブルにて――

 昼休みも終わり、それぞれの卓がまたゲームを再開している。悲喜こもごも、午前中での途中経過を話し合っていた参加者は、和気あいあいとした雰囲気の中、セッションを勧めていた。
 マンチキンに責められつづけているRQのマスターは、もう疲労困憊といったところだった。何を言っても、細かなデータを要求し、ルールをミスすれば細かく突っ込みを入れてくる。
 問題のマンチキン以外のプレイヤーも、もうコンベンションになんてこないと決意したくなるほど、嫌な思いをしていた。
 マンチキンは、GMだけでなく、プレイヤーの些細なミスをも突っ込み、糾弾しはじめたのだ。もちろん、それまでのGMへの突っ込みの時点で、非常にいやな思いをしていたのだが、その矛先が自分に回ってくるとなると、その思いはさらに深くなる。
 彼の言動たるや、ここまでくると偏執狂といってもいいようなものだ。いや、RQだからむしろ神知者、と呼ぶべきか――
「GM。それ違うんじゃないかな」
 件のプレイヤーは、GMがジェナーテラ大陸にオークを出したその瞬間、ここぞとばかりに突っ込みをいれてきた。たちまち、GMばかりか、参加している爪木を含むプレイヤーもうんざりした顔になる。
「オークは確かにグリフィンアイランドには存在するけど、ジェナーテラではオークを殺す呪文が広く知れ渡ったせいで絶滅してるはずなんだけど。だから、ジェナーテラではそのオークの呪文は比較的ポピュラーなものだし、上陸が知られたら、たちまちその呪文で殺されると思うんだけど」
 いわゆるマンチキンは、ここぞとばかりに突っ込みをいれてきた。確かにオークは、死に至らしめる呪文のせいで大陸では滅んだとなっているし、その事実はプレイヤーの知識としては知っていてもいいかもしれない。しかしキャラクターとしてはマスターが許可しない限り、知っているはずのない知識である。
「いや、だから、オークが絶滅したのはかなり昔のことで、その呪文はもうしられてないんだよ」
 GMは、もう説明するのも疲れたという感じで説明した。
「でも、かりにそうだとしても、僕らのパーティーには、ストームブルがいるんだよ? それこそ、ブルから啓示があってもおかしくないし、ブルの信者ならそもそも知っていてもおかしくないだろ? だって、オークは赤目の信者だし、赤目は混沌の神なんだから」
「……確かにそれはそうだけど……」
 GMは、またもやこのプレイヤーによってシナリオが大幅に変更されようとしていることに、うんざりした気分になる。いくら説明しても、ルールはこうだからと杓子定規にひっ張り出して、GMの意思を捻じ曲げるのだ。
「それに、ブルのキミもキミだよ。こういう情報ぐらい、ブルをやる上では基本だろ? それを、単に力任せに混沌を殺せればいいやって感じで、ブルを選んで。ブルってのは、キャラクターはそれでもいいかもしれないけど、プレイヤーに混沌に対する知識を完璧に要求するカルトなんだよ。それを知らないでキミって人はノリで決めて。まったく、もういいよ。僕がこれからちゃんと注釈をいれてくから、僕の言うとおりに行動して」
 GMやそのテーブルの参加者全員が、とうとうその追求に根を上げそうになったその時だった。


§第4章

 コンベンション会場、教壇――

 ルーンクエストのGMがマンチキンの追求に根を上げ、セッションを中断しようとしたそのときである。
「やめなさいっ!」
 いきなり、会場に女性の声が響いた。
 どこからか。そう、どこからこの声が聞こえるのか。コンベンションの参加者たちは、驚いてあたりを見回した。
「コンベンションを乱し、みんなの楽しみを奪うマンチキンは、私たちが許さない!」
 会場がどよめきに包まれる。


「う……うそ……」
 浦畑は、見栄を切って変身のロールをしようとしていた矢先の出来事に、あまりにびっくりしたせいで、手にしていたペットボトル入り緑茶を落としそうになった。
 ふと気がつくと、会場の黒板がある壁には、ずらりと五人の女の子がならんでいた。
 まず中央には、新品同様の白い箱のD&D――おそらく初版なのだろう――を手にした女の子が立ち、左にはトラベラーの中から、メガクレジットを手にしたちょっときつめの女の子。
 さらにその左には、ベーシックロールプレイの中から、クトゥルーの呼び声、黄昏の天使を手にした、長身でクールな女の子が立っている。
 対して右には、ワースブレイド、操兵エクスパンションを手にした、おおきな丸メガネを掛けている理知的な顔立ちの女の子。
 そして、右から二番目の位置には、ダブルムーン伝説を持った、すばしっこくて元気の溢れている少女が並んでいる。

 浦畑は、驚いて今自分が参加している同人TRPGのルールブックをみた。
『富山ころころ』
 そのルールブックには、確かにそうかかれている。あきらかに、日曜の早朝に放送されている、あの番組のパロディーだ。
「でも、そんな……本当にいたなんて……」
 ぱぁっ……と、柔らかな光が、彼女たちから発せられる。
 女の子たちは、ムダと思えるような回転をしながら、服を光に溶かしていき、それぞれ手にしたルールブックに軽くキスをする。それとともに、どこからか軽やかなBGMが流れ出し、変身のシーンに彩りをそえる。
 すると、服を溶かしていた光が、少女たちをまた包み始めたではないか。そして、光が服としての体裁を整えたとき、光は止んで際どい衣装に身を包んだ五人の女の子が佇んでいる。
 一番左は、百面サイコロを留め金にあしらったベルトを締めていて、着ている服は黒を基調としたスポーティーブラのような水着に、これまた黒のホットパンツ。
 左から二番目の子は、六面サイコロの意匠がほどこされたブレスレットを両手につけ、青い水着のワンピースにパレオを巻いている。
 一番右の女の子は、八面サイコロのネックレスに緑色の活動的なレオタード。
 右から二番目は、十面サイコロの飾りがついたヘアバンドと紺色のワンピース。
 そして、中央の女の子は、額の部分に二十面サイコロが燦然と輝くカチューシャを身につけ、ピンク色のド派手な服。スカートはミニめで、ちらりと見える下着のようなものは、アンダースコートだろう。

 女の子それぞれが、素敵に不敵な笑みを浮かべてキメのポーズをとり、中央の女の子が一言。
「TRPGの未来にご奉仕するコロ、って言うよ」
 と、男性プレイヤーがよく女性キャラクターを演じるときに使う、女言葉を使う抵抗を減らすための常套句で、台詞を言い切った。

「そんな、本当にいたなんて……富山コロコロ」
 浦畑は、唖然とした。
 いま、まさに遊んでいる同人TRPG『富山ころころ』の主人公どころか、全員が実在するなんて、誰も想像していないに違いない。というよりも、コンベンションの隠しイベントだろう、と思い込みたくなる。

 RQの卓で、ハデに暴れていたマンチキンががた、と立ち上がり、
「ふ、ふははははは! 遅かったな! このコンベンションは、われわれマンチキンがいただいたぞ!」
 声も高らかに宣言する。どうやらこいつも、『富山ころころ』に出てくるキャラクターらしい。彼女たちが戦う相手の、マンチキンのようだ。
 『富山ころころ』の女の子たちとは違って、マンチキンの体にはなにやら形容しがたい闇の煙がまとわりつき、奇妙な姿を形成していく。どでかい唇と牙、それに手足がついたような、異様な怪物だ。古式ゆかしい特撮マニアなら、バロム1を思い出すかもしれない。
 いつのまにか、その怪人の周りに、鶏が集まり、こけ、こけ、と鳴き声をあげていた。そして、その鶏も変身し、鶏のきぐるみを着た人間や、梅図かずお著の『14歳』にでてきたチキンジョージのような、異常な人の形をしたヒューマノイドの姿へと変わっている。

 浦畑は、マンチキンの連中もパーティー組んで戦えば、かなりいい戦いができると思ってしまうのと同時に、どうして一人で戦おうとするのだろう、などと具にもつかないことを考えてしまう。
 ひょっとしたら、マンチキンなだけに、仲間が出来ないのかもしれない、などと、浦田が馬鹿なことを考えていると、突然、会場に、ぽぅぅん、とスピーカーのスイッチが入った音が響いた。

『えー、当コンベンションは、コスプレ禁止になっております。それから、他のプレイヤーに対して迷惑な行動をとっている参加者も、コンベンション参加を見合わせていただくことになっております。従いまして、大変申し訳ございませんが、黒板の前に並んでいる方々、それにルーンクエストの卓で、先ほどからゲームの進行を阻害している五島様は、コンベンション会場への入室を禁止させていただきます』
 アナウンスが流れる。

 いくらマンチキンといえども、コンベンション主催者の意向には逆らえないのだ。黒板の前にいる五人の女の子と、名指しで退去命令が下ったマンチキンは、しかたなくコンベンション会場からでていくのであった。


 了


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