2003年10月号

オンラインコンベンションについて

特集: 単発記事
筆者: raopu

はじめに

 はじめまして、raopuです。
 今回の記事はオンラインコンベンション開催にまつわるノウハウ公開。オンラインセッション特集の中で、オンラインセッション、オンライン TRPGについては様々な記事が出てきてると思うので、ここではセッションそのものには触れず、オンラインコンベンションにスポットを当てていきたいとおもいます。

 オンラインコンベンションとは、通常のコンベンション(ここでは≒TRPGプレイイベント)をオンラインで行うことだとします。もちろん通常のコンベンションから流用できるノウハウは多いですが、オンラインならではのノウハウもいくつかはあるはずです!(出ないと書いてる僕が困ります)

 では、早速記事にいってみたいと思います。

今回の記事を読むにあたって

 さて、今回の記事を書くきっかけになったイベントは、CSTオンラインオンリーコンベンション『戦場ヶ原学園 秋の学園祭騒動記』というものです。2003年10/10(金)~10/12(日)までの三日間、毎晩21:00~朝までかけて、TRPG.NETさまのIRCサーバーで遊びあかすという、まことに剛毅な企画を開催させていただきました。
 セッションは合計7卓行われました。延べ参加人数は約75名。盛況のうちに終えることができました。この場を借りてGM、スタッフ、関係者の皆様、参加者の皆様にお礼申し上げます。幸せなコンベンションでした。

 多分知らない人が多いと思いますので、まずはCuteSisterTRPG(以降CST)について簡単に説明してみます。公式サイトに行って頂けると早いのですが、単純に云うとラブコメをテーマにした同人TRPGです。
 プレイヤーは『義妹』と呼ばれるエージェントになり、『因子』を持った少年に接近し、ラブコメな展開を通して『因子』を他のプレイヤーキャラク ターよりも早く回収したり、他のプレイヤーキャラクターを邪魔したり、はたまた少年と愛の逃避行に出かけたりするのが目的となります。

 と、書くとかなりの割合のユーザーの方が忌避感を抱かれます。確かにテーマ自体はキワキワですが、実際オンラインセッションのノウハウ事態は普遍性があることを書くつもりですので、ご勘弁ください。

 CSTはキワキワなTRPGなのですが、リリースから半年、ユーザー様に支えられてやってきましたので、感謝の気持ちを込めてコンベンションを開催することにしたわけです。

 記事を読むにあたって、最初にお断りしておくことが有ります。それはコンベンションですら、まだ様々な可能性が残され居ているはずだし、オンラインコンベンションと言う形態にはそれ以上の可能性が残されていると言うことです。

  ノウハウと言う次元では優劣が存在し、「こういう風にしたほうが確かに効率が良いだろう」ということはあるでしょうが、オンラインコンベンションの可能性の中には、運営の方法や運営思想と言ったものも当然含まれますし、そういった次元では優劣ではなく別の尺度で語られるべきだと考えます。

  今回行ったコンベンションは、多くある可能性の形の一つであり、唯一のものではありません。そのノウハウの中には流用できるものもあれば出来ないものもあり、それはコンベンションを開く意思の方向性によって価値付けられるものだと思います。以上をお断りさせていただいて、記事に行ってみたいと思います。

コンセプトワークについて

僕の場合、習性になってなっているわけですが、状況とコンセプトを整理することから、今回のコンベンションも始まりました。まずはコンベンションを開く意義についてなのですが、これは早い時期から

・新人にたいする敷居を下げて、新規参入者を増やす。
・今までのユーザーに対する謝恩。
・みんなでお祭りしたい。なぜなら俺個人がお祭り好きだから。

 の三つを考えていました。この三つの意義と現在の状況を考え合わせ、さらに今までのCST開発、コミュニティ運営のコンセプトとも矛盾しないようにここからコンセプトワーク、ゴールの設定を始めます。

▼ノウハウ:コンセプトや目標の設定は必要。多人数が参加する組織では時に議論や活動の最中、道に迷ったり方向性がわからなくなります。指標としてのコンセプトや目標は、必須です。

 金銭の授受が存在しないアマチュアボランティアスタッフで運営される組織の場合、最もネックになるの事の一つが、労働の対価をどう支払うかということです。僕はそれを「楽しさと満足感」であるのが良いだろうと考えました。

 TRPGはゲームであり、遊びで、趣味です。
 何か事を成す上で、苦痛なり苦難が存在し、それを克服すること(修行や苦行と言う考え方)が、上等である、そうでないより尊いという思想が日本にはありますが、僕は、それが真実だとはまったく思っていません。確かに目の前にある障害を克服することは尊いかもしれませんが、苦痛を感じながらでも楽しみながらでも価値は変わらないはずです。

 ですから、CSTのコミュニティでも今回のコンベンションでも「何かをやりたい人だけが、やりたいことを、やりたいだけやる。やりたくないことはしない」というコンセプトは一貫しています。

  また、指揮系統の混乱、伝達不測もこの種の運営組織ではネックになることが多い問題です。責任範囲が不明確であったり、問い合わせ先が不明確であることに より、時間もそうですし、やる気もロスしてしまいます。やる気はアマチュア&ボランティアで運営組織において最も重要なリソースの一つです。
 この部分をロスすることは許されません。

▼ノウハウ:やる気は重要なリソース。無駄にするのは許されない。

 上の二つの条件をクリアする方法として今回採用されたのが「運営責任を一人で負い、他のスタッフには助けてもらったり協力はしてもらうけど、責任や仕事は押し付けない」と言う方法です。

 となると自動的に次のコンセプト「出来ないことを高望みしない。最低限自分ひとりで出来る運営で計画を練る。でも、出来るだけ多数のスタッフとユーザーに楽しい時間と空間を提供する」となりました。

準備について(1)時間

 今回のコンベンション、時間の関係で実際には企画と準備を平行して走らせています。ここでは「時間」、つまりスケジュールとその管理の部分の説明したいと思います。

 コンベンションをやるよーと言い始めたのが8月の終わりごろ。

 「夜間にやって一日数卓、複数日で、週末か連休に開催」というのは、いままでCSTが遊ばれてきたセッションの文化からほぼ自明として決定しました。
#後でこの決定に疑念がよぎり、昼間開催の卓を用意しようとしますが準備不足のため断念することになります。

▼ノウハウ:自明のことでも一回は疑っておこう。でもあんまり疑ってばかりだと前に進めなくなるので一回だけね。

  コンベンションの日付を決定し、正式に告知した第一報が9月17日です。ここからGMとスタッフの募集を開始。この日から10日間くらいでGMを募集。GMの皆様のはそれ以前から声をかけていましたので、苦労しながらも協力してくれる人を集めることが出来て、日程を本式決定。

 ユーザーに対して告知をしたのが10月1日。
 開催自体が10月10日~10月12日の三日間ですから、実際の準備は10日間ですね。こうして記録を見てみると良くわかりますが、びっくりするほど短期間で準備を行ったことになります。

  前項でも書いたとおり、やる気は重要なリソースで、しかも大概は有限です。で、このやる気と言うのは、前進感がないと萎えます。ですから、短期間で準備すると言うのは、その面では有利でした。また、締め切りが迫らないと、人間はなかなか本気で作業できませんから、開催直前に作業が進むのもある程度予想は出来ていました。
 そういう意味で、必ずしも長い準備期間がプラスにはなりません。適正な期間と言うのはあります。今回の準備期間は、適性よりはちょっと短めですが、まずまずだったのではないでしょうか。

  実行してみて強く感じたのは、準備期間はやはり企画との兼ね合いだということです。ですから、短いから、長いからということだけでは判断することは出来ません。また何度も繰り返すようですが、アマチュアボランティア組織での運営の場合、「やる気」のほうが「時間」より重要なファクターです。
 「やる気」を中心にすえて、それを最大化できるような時間設定を行うほうがより効率的ではないでしょうか。

▼ノウハウ:準備期間は短すぎても長すぎてもダメ。「やる気」を最大化できるような時間設定を行いたい。

準備について(2)必須の企画

・準備期間はいろいろ入れても2週間
・出来ないことを高望みしない。最低限自分ひとりで出来る運営で計画を練る。
・出来るだけ多数のスタッフとユーザーに楽しい時間と空間を提供する

 企画については、上記のコンセプトを念頭に置きて考えまし た。まず最初にコンベンションの本体であるセッションがなくてははじまりません。これは毎晩2卓ということにしました。PLのかたや参加者の方の都合も考えて複数日開催にしたわけですし、1日の卓数はちょっと少なめの方がいいだろうと考えたせいです。またPLさんが少なかった時のためということでも有りました。
 この辺はそのゲームタイトルの人気と地域性、条件を考え合わせることが必要ですね。

 また、開会式と閉会式はイベントの精神的な区切りでもありますし、手間がかかるわけではありませんから(用意した原稿を、IRCのチャネルに流すだけのことを考えていたため)実行することにしました。

 ユーザーの受け入れ自体は、公式サイトの特設ページ設置、掲示板を考えました。もともとCSTは「ガイダンス」と呼ばれるセッションの予告をGMが発表し、それに対してPLがPCを作成、ゲームにエントリーするという遊ばれ方が標準になっています。
 そのため、ユーザーは完全予約制とすることも、比較的すんなり決まりました。公式サイトにはGMさんたちに作成してもらったガイダンスを表示すれば、それがそのまま今回立つ卓表ともなるわけですから、楽です。

 さらには当日の会場(TRPG.NET様です)までの案内、IRCの案内など。これでコンベンションとして最低限の体裁は整ったと考えました。

▼ノウハウ:最低限必要なものと、そのほかの企画は切り離して考えよう。企画には優先順位をつけて優先順位の低いものが高いものの妨げにならないようにしよう。

準備について(2)そのほかの企画

 今回のオンラインコンベンションについては、さらにある程度の企画性が必要だと僕は考えました。
 IRCを中心にオンラインコンベンションを行う場合を想像してみた時、「同時にいくつかのオンラインセッションが行われているだけ」になることが容易に想像できたからです。

 それでは外部の新規参入予定者に対するアピールが弱いのではないか、そして僕たちももっと楽しいお祭りをしたい! と考えた時、そのほかの企画は必須企画とは別の意味で重要だと考えました。

 そこで今回実行したのは以下の二つの企画です。

A.コンベンション全体を文化祭と定義づけて、GMのみなさんには巨大学園の文化祭三日間をテーマにしたシナリオをやってもらう。
 もともとCSTには背景設定として戦場ヶ原学園というものがあり(とはいえ、これ以外の世界でももちろん遊べるのですが)この戦場ヶ原学園の文化祭をテーマにシナリオをいろんな切り口で、いろんなGMでやってみるのは、参加者に連帯感を与えるのではないかな? というアイデアでした。 GMの皆さんにも好評だったために採用となりました。さらにGMおよびPLの設定支援のために、巨大学園戦場ヶ原の文化祭の設定を書き起こして、公式サイトに投入。イベントが数十も行われる楽しい学園祭の雰囲気作りをやってみました。

B.文化祭のFMラヂオ曲に見立ててて、IRC一つのチャネルをHTMLでも公開してみる。
 TRPG.NET様の協力で、IRCチャンネルの一つを公開していただき、Webブラウザでも即時反映で見学できるようにしていただきました。オンラインセッションについて、IRC導入でためらう初心者が多いという情報は、僕も耳にしていました。
 CSTに興味があっても、まだ導入にはちょっと……という層です。この層にアピールするために、公式サイトで、コンベンションの様子を流すのは有効だと考えました。
 そこで案Aとのかねあいで「FMラジオ局の雰囲気」をとりいれて、三日間、約30時間の放送をおこないました。放送の内容は、フリートーク、 メールの紹介、CSTやオンラインセッションの紹介、運営サイドからのお知らせ、合計9つにおよぶ1時間番組など、また重要なのは同時に行われているセッションの突撃レポートです。
 IRCに慣れている人間でも、活発に話が進んでいる複数チャンネルを把握するのは難しいものです。
 とくにCSTは通常プレイでも、チャネルを二つ使用する形式になっているため、混乱したコンベンションになることは予想されていました。そのためにラヂオを設置し、「自分が遊んでいる、観戦している卓の状況や雰囲気が伝わってくる」ことを目指しました。

▼ノウハウ:手間をかけずに企画をでっち上げるためには、ケレン味も重要。『お祭り気分』で自分も人も盛り上げていくために、(企画は)ちょっと大風呂敷なくらいのほうが良い。(手間は)最小限に抑える方向で。

開催期間中

 開催期間中は混乱と混沌でした。チャンネルは最も多い時で

#CST総合:総合雑談ロビー、受付
#CST偽:GMやスタッフの待機場所
#CSTラヂオ:ラヂオの収録室。公開チャネル。
#CSTラヂオ裏舞台:ラヂオの調整室。ネタあわせ部屋。
#CST”セッション1プレイルーム”
#CST”セッション1観客”
#CST”セッション2プレイルーム”
#CST”セッション2観客”
#CST”セッション3プレイルーム”
#CST”セッション3観客”

注:CST ではセッション中のプレイルーム(GMとPL以外基本的に発言禁止)と観客席で分かれている環境でのプレイが一般的です。一つのセッションを直接プレイに参加する人間が眺めて感想を言い合うというのは、普通のオフTRPGではちょっと珍しく異様ですが、オンラインの場合、物理的空間面積などの問題が無いため、上手に機能するようです)

 以上の10にもおよび、さらにはプライベートメッセージ、掲示板の書き込み、公式サイトの更新、Web側でのラヂオ視聴、データ確認ページ(CSTではCGIでステータスをオンライン更新しながらゲームが出来る体制になっています)などなど。

 全てを追いかけきることは極少数の人間にしか出来なかったのではないでしょうか。通常のコンベンションであれば不可能な「二つの卓を同時に観戦する」ことが、逆に出来てしまうのもオンラインコンベンションの特徴の一つです。
 やはり中央になるチャネルをひとつ設定し、公式のお知らせ、誘導などはそのチャネルで行ったほうがいいでしょう。とくに、「始めまして見学したいんですが……」といって入ってくる人達用に、案内のテンプレート文字列は作っておいて、誘導をする可能性の有るスタッフに配布しておくといいでしょう。
 今回のコンベンションでは、開始2時間で気がついて、急遽配布することになりました。

▼ノウハウ:案内用のチャネルは必須。できれば、そのチャンネルを「卓」とみたてて、GMもしくはコンシェルジュ役を作っておくといい。今回は事実三日に飛び入りPLが希望してきて、リザーブ卓が一つ追加された。

▼ノウハウ:案内用の文章はテンプレートを作って配布すると便利。また気のきいた案内はコピーして使おう。

 三日間にわたるコンベンションは確かに大変でしたけど、初日に感じた不都合な点を、どんどん改めていくチャンスがあるというのは実際にありがたかった点です。
 人が集まって何かをやってるんですから、小さなミスがあるのは当たり前です。しかし、小さなミスに思い煩ったり悔やんで、楽しめなくなったり、周りの楽しい気持ちを損なったりするのはバカらしいです。
 むしろ、小さなトラブルを一緒に解決することの楽しさを(文化祭の準備のように)楽しんで欲しい、楽しめる気持ちこそが重要だと思います。

▼ノウハウ:優先順位とコンセプトを常に胸に。小さなミスは気にしない。参加者のいいところには賞賛を! 声を掛け合いながらがチームプレイの基本だ。

さいごに

 今回のコンセプトが特にお祭りだったこともあるのでしょうが、人を集めるのは「何か楽しいことをやってる連中がいるぞ」という、予感させるオーラのようなものだと思います。
 特にそれはオンラインでは顕著で、楽しい騒ぎに一枚噛んで、自分も充実した時間をすごしたいと考える人間は多いでしょう。そのためには、運営サ イドはポジティブでなければならない。過ぎたことや小さな失敗にはこだわらず、楽しいことは楽しい、上手なものは上手、すばらしいものには感嘆、協力して くれた人にはお礼。きちんと伝えて、一緒に動いていく。そういう姿勢がどうしたって必要です。

 というか、その姿勢だけで、本当は他のノウハウなんて必要では無いのではないでしょうか。

▼ノウハウ:楽しい雰囲気、高揚のドライブ感を大切に。ネットでは特に「何か楽しいことをやってる人がいる」ということに人は惹かれて集まる。新規参入者を求めるのであれば、その雰囲気やケレン味を広報していく心構えも必要になる。


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