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2003年10月号

「独立独歩! オンラインTRPGセッションのすすめ」

特集: 単発記事
筆者: raopu

最初に

 この記事が載るのは、オンラインセッション特集なのであるからして、きっとそこにはオンラインTRPGセッション(以降オンセ)とオフライン……いわゆる通常のTRPGセッション(以降オフセ)の差異が書かれた記事が多く掲載されているだろう。
 その多くは、両者の長所と短所についての比較を基にして何かしら有意義な結論を抽出することを目的にして書かれているだろう。たぶん、何らかの恣意的な意図がない記事は出来るだけ公平な視線で書かれていることと思う。それらはきっと、おおむね現在の状況把握として正しい。

 比してこの記事は、「現在の状況把握としての正しさ」に重心を置いていない。

 別に正しくなくても遊びは楽しいことがありうるし、未来を展望するに当たって「現在の状況把握としての正しさ」だけにこだわっていては、より良い結果をつかみ取れないこともあるからだ。

 当記事は、オンラインセッションが今よりもっともっと普及することを目的として書かれている。つまり、アジテーションなのである。そこに注意して読んで、出来れば布教してみてほしい。筆者は、オンラインセッションが普及されることを強く望んでいる。

オンラインセッションとオフラインセッションは別物だ

 武器を持たずに一定のルールで人間が戦い勝敗を決定する行為……つまり格闘技なわけだが……において、たとえばプロレスと相撲を一緒くたにするのは、乱暴な行為である。パスタもうどんも麺類程度の乱暴さである。
 まったくその道に関心がない素人にすればありえる行為かもしれないが、興味がある人間にすれば顔を真っ赤にして怒る行為であろう。

 それと同じように、僕の知り合いはAD&D 2ndと3eを一緒くたにして語ると、烈火のごとく怒るやつがいるのだった。
 ごめんよ。俺にとってはそのとき一緒にしてもいい内容だったんだけど、君にとっては明らかにそうじゃなかったんだよね。俺が悪かった。

 だのに、その友人は、オフセもオンセも一緒にして語るのである。
 冷静に考えてみたって、オフセとオンセの間にある距離は、AD&D 2ndと3eとの間の距離より遠く離れているはずだ。それなのに無批判に、オンセとはオフセでやってる行為を回線越しにやっているだけだと思っていたんだな。違うのだ。その両者は別物なのだ。

 まったくその道に関心がない素人にすればありえる行為かもしれないが、いやしくもTRPGをプレイして興味を持っている人間にとって、一緒にしてしまっていいような距離ではないはずだ。

 まず最初のポイントはこれだ。【オンラインセッションとオフラインセッションは別物】である。そうすれば、両者を比較して悩んだり落ち込んだり忌避したりする無益さに気がつくだろう。

 もちろん比較すべてがくだらないわけではない。どちらか片方しか経験がない人間に対して、もう一方を紹介する際にAとBとCという点において違うところがある。というような説明は、ある局面で有効だ。

 しかしながら、どっちが(もしくは、ある点をとりあげて)優れているとか、劣っているというような考えは、まったくもってナンセンスだ。

「プロレスに比べて相撲には、ロープがない。ロープがない以上、そこからの飛び降り攻撃が出来ない。その点において相撲は劣っている」などと論じる格闘技ファンがいるだろうか?

ではどう考えればいいのか?

 そう考えると、オンセには(もちろんオフセにも)、長所も短所もないのだ。あるのはただ単に、特徴だけだ。(もちろん個人の嗜好によってその特長によって好悪が分かれるのは当然だが)

「たとえば、一般的に云って、同じシナリオを同じプレイ手法で同じメンバーでオンセでは、オフセにくらべて2~3倍の時間がかかるといわれている。これは短所ではなくてはなんなのだ」

 そういう意見もあるだろう。だがしかし、2~3倍の時間かかるからこそ、オフセに比べてじっくり考えながら行動の取捨選択を出来るという側面もある。そしてそれをありがたいと感じている参加者だって、少数とはいえ存在するのだ。

「文字でしかコミュニケーションが取れない以上、情報の流通量が少なくなって、臨場感が失われる上にコミュニケーションに時間がかかる」

 という意見ももちろんあるだろう。しかしながら、そうであるからこそ「声の大きいPLが威圧的に自分の意見を通しやすいというオフセにありがちな状況が発生しない」という長所だって見出せる。
 文字以外に映像だって音声だって(準備すれば)使えるのだ。3DCGで用意しておいた画像でオンセを行うことも可能で、誰にも禁止などされていない。

  【オンラインセッションとオフラインセッションは別物】という考えに立てば、きっと新しい地平が見えてくる。オフセをやっていたメンバーが、オンセを行っ た際に「今まで出来ていたあんなことやこんなことが出来ない」と感じてしまうのは仕方がないだろう。なにしろオンセを行うことが出来る環境が、一般に普及 しだしたのはまだ近年のことだといってもいいのだから。
 しかしその時に、「出来なかったこと」を、そのまま「オンセの短所」に結び付けてしまうのは、お互いにとって幸福なことだとは思えない。

 サッカーは足でボールを蹴るスポーツなのである。手が使えないからって、元アメフト選手が落胆するのはわかるが、それでは未来に進めない。
 手が使えないという制限は「それならば、その条件下で新しい面白さはどこにあるのだろうか?」という方向で嗜好してこそ、有意義な制限になりうるはずなのだ。

オンラインセッションのサプライズ

 なんにせよ、オンセの手法にしろ定着にしろ、まだ始まったばかりなのである。だからそこで使われるテクニックも、まだ研究段階といってもいい。

  新しいテクニックや演出、プレイ手法はまだみんなが研究していて、それらはきっとプレイヤー達はまだ知らないのである。基本の精神はオンセでもオフセでも 一緒だ。幸せで楽しいひと時みんなで共有したいということのはずだ。その基本精神にのっとっていれば、いろんな研究をするのは有意義なのではないだろう か?

 たとえば、シナリオの最中にPLの一人に、とらわれたヒロインが事前に出していた手紙が届くというシーンがあったとしよう。オフセだったらあらかじめタイプしておいた紙を渡すのだろうか? ではオンセでは?

  セッションの最中、チャットをしているにもかかわらず、PL1のメアドに突然届くというのはどうだろう? もちろんメンバーの性格やセッション環境にもよるだろうが、びっくりしてもらえるのではないだろうか? PL1は自分の胸にしまっておくかもしれないし、仲間にその文面を見せるかもしれない。

  ホラー物のシナリオにおいて、PL1にだけ霊の言葉が聞こえるという演出はどうだろう? IRCなどのチャットでは、プライベートメッセージによって一人にしか聞こえないメッセージを送ることは容易である。PLの中の一人にだけ「……寒い、助けて……」とか「暗いよぉ、眼が、眼が痛いよぉ……」などと言うメッセージを送るのは、なかなか怖いのではないだろうか?

 サイバーパンクで、暗号を解くシーンはどうだろう? 暗号を解くとURLが出てきて、そこにアクセスできるようなWebを作っておくというアイデアはどうだろう?
 面倒くさい? もちろんだ。しかし、それでも、新しい可能性が発見できないだろうか。面倒くさくて効率的でないかも知れないが、それはいろいろ試行錯誤した後に判断しても良いはずだ。

もっとオンラインセッション

 というわけで、オンラインセッションについていろいろ語ってみた。きっとこの記事を読んでいる人間はTRPGを日常的に遊んでいる人間であると思う。TRPGのセッションが期待を持ってわくわくして、多少の困難をものともせず、今日も面白く遊ぶぞ! みんなと楽しく過ごそう! と考えてはじめたほうが、結果として多くの楽しみを得られる一日になることを、経験的に知っていると思う。

 オンラインセッションにおいてもそのことは変わらない。オンラインセッションの新しい可能性や、その特徴を肯定的に見つめれば、きっとオンラインセッションは、オフラインセッションとは別の、だが同じくらい素晴らしい楽しさを提供してくれるはずだ。

 さぁ、まだオンラインセッションを体験してない仲間に「新しいサプライズ」を配りにいこう。


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