シナリオ不作成入門 応用編
これを読んでいる諸兄は、拙作『シナリオ不作成入門 基礎編』は既読かと思います。もしまだ読んでいらっしゃらない方がいるならば、まず基礎編から目を通す事をお勧めします。
はじめに
『シナリオ不作成入門 基礎編』を読んだあなたは今、「よしオフィシャル・シナリオを購入してプレイしよう」「ダウンロード・シナリオなら妻も文句は言うまい」「ランダムダンジョン、ほれポチっとな」或いは「さて、じゃあシナリオを一から作成するか」と思って、シナリオ不作成の道を進まんとしている事でしょう。しかしながら、ここで僕は一歩先回りして、シナリオ不作成DMがいずれ行き詰まる状況、及びその時必要となる応用的技術について、本稿で解説しようと思います。
君達はダンジョンの目の前にいる
不作成スタイルでキャンペーンを続けていると、時折プレイヤ・キャラクタのその時の状況とシナリオの導入に折合いがつかないことがあります。例えば、キャラクタは大都市のド真中にいるにも関わらず、シナリオの導入部に「君達が森の中を通る街道を旅していると……」と書かれている場合がそうです。こういう時、不真面目で不実で邪道なDMならば「よし、ではキャラクタが森に至るまでの部分はシナリオを自作しよう」と神の教えに背く事をしてしまいがちです。しかしながら、諸兄のような真面目で誠実で王道なDMならば、こんなことをしてはいけません。
こういう時、不作成DMならば、楽をするべく次のようにプレイヤに話を持ちかけるべきです。つまり「このシナリオは森の中から始まる事になっているんだが、突然君達は森の中にいたくなったりしないかな?」と。もしプレイヤがこの提案に反対したならば、即座に、全ての魔法的物理的準備を終えた20レベル超のウィザードがテレポート・ウィズアウト・エラーで出現し、不意打ラウンドの間に《呪文威力最大化》されたタイム・ストップの呪文を行使した上で、キャラクタ全員を然るべき場所へテレポート・ウィズアウト・エラーで連れていくというイヴェントを発生させましょう。
錆び付かせるより作り込む方がいい
サプリメントが発売されるにつれ、そのデータを使ってキャラクタはどんどん強くなり、一方でシナリオ中のNPCは出版された時点でデータの増強が止ってしまいます。このような事から不作成スタイルでキャンペーンを続けていると、同じレベルのキャラクタとNPCでもキャラクタの方が遥かに強い、という状況が発生しがちです(あなたは、常に後発サプリメントの方が強力なデータを含むという事実を見逃してはいけません!)。
注意しなくてはいけないのは、あなたはシナリオ不作成スタイルのDMであるという事です。つまり、あなたはNPCを作成(或いは再構築)してはいけないという言われはないのです。寧ろシナリオ不作成DMであるならば、既成シナリオに登場するNPCについてはどんどん改良――中には改悪だと声高に主張するプレイヤもいるかもしれませんが――すべきと言えます。そうすれば、自然とシナリオにDMならではの独自性が産まれるからです。殆どの場合、キャラクタにとって敵は強大であるべきです。最終的に不作成DMは「だってシナリオに書いてあるんだもん」を金科玉条にし、いかな理不尽で強力なNPCでも喜々として利用し、キャラクタを殺害する事に至上の喜びを感じるようなるのが望ましいのです。
全滅
さて、ここまでに述べたシナリオ不作成スタイルの方針を理解し、これを実践しようと努めたDMならば、1度や2度ならずキャラクタの全滅を経験することでしょう。生けとし生けるD&Dゲーマは、全滅という現象は極々通常に発生する茶飯事と考えているので、プレイヤから文句を言われる事は無いでしょう。もしプレイヤが苦情を言ってきたならば、(1)そのプレイヤはD&Dゲーマでは無い、(2)実は他のゲームをプレイしていた、(3)文句を言っていたのは妻だった(妻というのは常に苦言を呈するものです)、のいずれかに違いありません。従って反対されるというケースは理論上無視できる誤差と言えます。
シナリオの途中で全滅してしまった時は、些か困った事になるでしょう。参加していたプレイヤは当然それまでのシナリオの内容を知っているので、もう1度最初からプレイしなおすという訳にはいきません。こういった場合、可及的速やかに別のシナリオへと移行するのが最良の策です。シナリオ不作成スタイルの場合、適当なレベルの既成シナリオを見繕って来れば良いだけなので、他シナリオへの移行が極めて容易なのも特長です。
おわりに
ここまで読み終えたあなたは、既にシナリオ不作成DMとして必要な知識は揃い、目の前に既成シナリオがあり、来るべき障害に対処する方法も理解した一端のシナリオ不作成DMになったと言えるでしょう。そんなあなたは、即座に次のステップへとレベルアップするべきです、そう「シナリオ作成DM」へと。