シナリオ「日シナの理緒ちゃん」20
1.
薄暗い室内、天井から吊り下げられたライトの直下に麻雀卓。既に3人が着席している――
理緒「セッションだと思ってたら、麻雀をするんですね。あと一人、誰か来るんですか?」
洋「理緒さんにはまだ紹介した事が無かったかな。僕の昔馴染みの、主人公気分がどうしても抜けない奴で……」
東子「主人公気分? まさか」
2.
唐突に画面に入ってくる4人目。
りう「久しぶりだな、東子」
東子「りう!? 貴方、生きていたの?」
理緒「何か死ぬような目に遭った人なんですか」
洋「うん……まあ……」
3.
唐突にモノローグを始めるりう。四角い吹き出しの中の文字が多い。
りう「――TRPGにも麻雀にも行き詰まった俺は仲間と離れ自分に出来る事を求めて各地を放浪した。旅先で偶然セッションに参加することになった俺は、トランプを判定に使うシステムに初めて触れた事で光明を見出し、ほんの一晩で麻雀パイで判定を行う今までに無いTRPGを創出するに至った。4人1組で行うこのゲームはごく普通の麻雀の設備を使って楽しめるという特長があったが、雀士もどき共には相手にされず、TRPGマニア共には距離を置かれ、TRPGも麻雀もこなせる数少ない者達は、判定システムをとうとう理解し得なかった。俺はこのTRPGを受け入れてくれる仲間を求めて各地を彷徨い、辿り着いたのは古巣とも呼べる懐かしいこのサークルだった。そして云々」
東子「……うろついていた間に貴方に付き合わされた、一人一人に同情するわ」
理緒「なんだか大変な経験をしていたみたいですけど、TRPGのシステムに何か工夫を付け加えたい時には、日シナのマスタリング講座が役に立つわよ」
4.
洋「マスタリング講座というと、例の?」
理緒「そう。60年の実績を誇る日シナのマスタリング講座は、現役のゲームデザイナーやディベロッパーが先生。既存のシステムに欠けているものに気付いた貴方のアイデアを実現するためのノウハウを、基礎から応用まで親身になって指導して下さるのよ」
5.
理緒「バインダー式のテキストと実用新案のマスタリング練習機を使えば、何度もテストプレイを繰り返したのと同じ様に、自分の発想の長所も欠点も把握できるの。新システム完成への早道よ」
東子「自作のローカルルールを客観的に捉えることって、結構難しいですものね」
6.
理緒「1日20分の練習を続けるだけで、シナリオ検定にも楽々合格。シナリオ1級の合格者の9割以上が、日シナの出身なんですって」
りう「歴とした資格を持たなかった為に皆を従わせる事が出来なかったのだとしたら、俺に欠けているものを掴むなによりの手段という訳だな」
洋「それは違うと思う」
7.
洋「まあ、折角無事に戻って来られたんだ。放浪してた間の悩みは忘れて、軽く普通の麻雀をやろうや」
理緒「んー。たまにはいいか」
りう「あんた達が腕を鈍らせていないか確かめさせて貰おう……チー」
東子「あ」
顔を引きつらせる東子。
8.
りう「ポン。……チー。……ツモ」
理緒「……って、それチョンボじゃないですか」
洋「…………」
りう「……手を止めるより、次に行こうか」
東子「ぶちっ」
9.
りうの首根を掴み上げる東子。
東子「散々場を掻き回した挙句自滅しておいて全然反省しない癖、あんたまだ直してなかったんかーっ」
りう「ぐ、苦じい、死ぬ死ぬ」
理緒「りうさんの主人公気分って、この事を言ってたんですか?」
洋「セッションの度に、東子に締め上げられていたよ……」