2004年06月号

シナリオ「日シナの理緒ちゃん」21

特集: 日シナの理緒ちゃん
筆者: ちた・まみむめ

1.

警察の関係者が慌ただしく動いている、荒らされた室内。女性の変死体を前に、黒服の男と高校生風の少女が話しあっている――

名探偵「口元は微笑んでいるが、鼻から上は木端微塵。取れてしまった長い三つ編みの中ほどを、右手でつまんでいる」
 理緒「お下げを引いたら、頭が破裂しましたって感じ?」
名探偵「そう見えなくも無いな」
 仔猫「にゃー」

2.

 理緒「わあ、仔猫だ。殺人的に可愛いー」
 仔猫「にゃー」

仔猫を抱き上げる理緒。

名探偵「迷いこんだのか? ああ君、鑑識官くん。なぜこんな、この場にそぐわない存在がいるのかね」
鑑識官「死体の発見当時から居たので、現場保存のために閉じ込めてあります」
 警官「そう言うお前らは何物だよ?」

3.

名探偵「私は異常な事件に多く関わることで有名な名探偵。こちらは私の友人の椎名理緒君だ」
 理緒「この女の子を殺した犯人のプロファイリングに、『日シナのマスタリング講座』仕込みのロールプレイの技術が役に立つんじゃないかなー、なんて」
鑑識官「……まだ殺人だと決まったわけじゃあないですけどね」
 警官「何だよその『マスタリング講座』というのは」

4.

 理緒「60年の実績がある日シナのマスタリング講座は、説得力のあるシナリオを作るための整合性の詰め方、NPC達の性格付けについて、超一流の先生方が親切ていねいに指導して下さるの」
名探偵「場合により、シナリオメイクは、蓋然性との知的な格闘にもなり得るのだよ」
鑑識官「NPCの性格設定をそれらしく仕上げる技術は、人間性を把握する技術に直結しますね」

5.

 理緒「バインダー式で扱いやすいテキストと、実用新案のマスタリング練習機があれば、ロールプレイの練習をしながらシナリオのデベロップもできて一石二鳥です」
名探偵「ロールプレイを充分に活用するなら、人間心理に通暁し得る場合もあるのだ」
 仔猫「……にゃー」

6.

 理緒「1日20分の練習を続けるだけで、シナリオ検定にも楽々合格。シナリオ1級の合格者の9割以上が、日シナの出身なんですって」
名探偵「まさに公的かつ客観的なマスタリング技術という訳だよ、君」
 警官「で、そのマスタリング技術とやらで、犯人の心理状態を推測出来るのか?」
 理緒「うっ……犯人の情報が少なくて難しいので、かわりに被害者になりきってみようと思います」

7.

 警官「まあ、彼女の最期の行動が判れば、現場検証の役には立ちますよね」

抱いていた仔猫を床に降ろす理緒。

 理緒「部屋に入った彼女は仔猫を見て……」

自分の髪を一房、つまみあげる理緒。

 理緒「じゃれさせてやろうと、自分のおさげをこう持って近づいて……」

8.

 仔猫「にゃっ!」

とっさに理緒を突き飛ばす名探偵。
理緒に飛びつく仔猫。
勢い余った仔猫がぶつかった先のシャンデリアが砕け散り、起こった突風で周囲の警官がよろめき、床のものが舞い上がり、豪音が響き、……

9.

 警官「その非常識な仔猫を取り押さえろっ」
 仔猫「うにゃーっ」

大騒ぎを背景に述懐する名探偵たち。

名探偵「まさに私が関わるに相応しい、異常な事件であった」
 理緒「死ぬ……死んじゃうところだった」
検察官「現場で被害者の行動をそのままなぞるのは、危険でしたねえ、考えてみれば」


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