あなたがた、やりすぎです●すりーぴんぐ なう
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「その格好で森を抜ける気か!? 散歩しに行くんじゃないんだぞ!」
俺は狩人だ。だから、そこらの連中よりは森を知っているし、その知識を生かして金をもらって案内もすることもある。
ただ、トロルや化け物が住み着き、普通なら誰も足を踏み入れることはない危険な森を通るというのに。
そいつらの格好ときたら……
「ん~? 武器なら持ってるし。食料もあるし」
とろそうなハーフリングが、短弓にわずかばかりの木の実を取り出した。
……何日かかると思っているんだ? 歩きで一週間は掛かるんだぞ、ましてその短い足だったら。
「ああ、戦闘はなるべく避けたいが、いざという時はさっさと見捨てて逃げてくれ。戦いづらい」
うん、たしかに全身鎧に身を固めて森に行こうなんてヤツを待ってはいられない。
大体、何故誰も馬に乗っていない?
たしかにあの森は馬じゃつらいが…ここだって大分辺境だ。
どうやって?
「荷物が少ないのが心配? ま、私たちのことは気にしなくて良いわ」
こっちの魔法使いときたら、さらにひどい。
荷物と言えるのは腰につけたポーチだけ。
そのでかいマントは寝具がわりにでもなるのか?
出るまでに村で装備を一式整えさせようとしたのだが、誰も整えようとはせず。
それどころか、宿屋で今夜のメニューを聞く始末。
本当に今から出発する気があるのか。
不安を抱えつつ、森に行くことになった。
「道理で馬が要らない訳だ。だが、何故、わざわざ案内人をつれて森の中をいくんだ?」
飛行の魔法で馬より早くすっ飛びながら、つぶやいた。
「森の上空を飛んで、1リーグ四方にやってきましたって叫びながらいけって?」
「飛ぶとねー。目立っちゃうんだよね。ほら、なにもないぶん狙い易いし」
「前に、とんでた魔法使いを落とした。逆もまた然り」
要するに狙われてるからこっそり行くと。
「で、そろそろ日が暮れようとしてるんだが。野営は? このあたりに洞窟はないから木の陰ぐらいしか」
と、返事がないので見てみると、いそいそと地面に魔方陣を描いていた。
また魔法か。
「そのとおり。移送魔法で村の宿に戻るわ」
……移送魔法? そんなもん使えるなら……
「一気に目的地に行かないのは、しらないとこに行けないからだよー」
「まあ、言いたいことはありそうだが、色々あってな」
釈然としないうちに魔法で村につき。
妙な顔をしている宿の主人とふたり、首を捻りながら眠りについた……。
☆
○恐怖の夜
「げぇっ。なんで誰も見張りに立っていねえんだっ!」
「決める前に寝たからでしょ!?」
「とりあえず、にげよー」
「先祖伝来の鎧が、銘剣が」
「準備してないアンタが悪い」
「拾うヒマなさそーだけど?」
夜は危険なもの。
野営地で見張りを立てずにいて、怪物に奇襲を受けるというのは困りものだ。
見張りを立てていたとしても、気づくことがなければ同じこと。
夜は視界が狭まる。夜目が利く者がいれば便利かもしれない。
また、気づいたとしてもそれが勝てないような敵であったら?
奇襲を受けて主力が欠けてしまっていたら?
逃げる準備も必要かもしれない。
だが、逃げるにも準備が必要だ。
最低限必要な荷物はどれだ?
身を守る武器か?
旅の途中であるなら食料は必要か?
希少なアイテムを掴むのが精一杯だったら?
気にするときりがないかもしれないが。
○準備の夜
「今夜は安心だなっ」
「まあ、そこら中に罠張ったし。死角ないように、馬車を挟んで二箇所かがり火つけた」
「夜目の利くエルフの弓使い見張りに雇って、明かりのスクロールも買った」
「イザというときも、飛び道具が使えるヤツと、白兵得意なヤツを組ませた」
「イザとなったら、足元の鐘を鳴らして、枕もとの武器掴んで跳ね起きれば完璧?」
「お金と時間かけたから、完璧じゃないとつらいわね」
いろいろ対応できるように対策を練ってみる。
ひとつに移動手段として、馬車を用意した。
これは、傷ついた者の搬送、及び射撃戦の時には遮蔽ともなる。
いっぺんに多人数を運べるのも利点。
デメリットは、広いところでないと使えないということ、操る人がいること。
つぎに照明の手段を複数用意した。
これは、夜目の利かない種族中心のパーティの戦闘範囲を広げる狙いがある。
見えないところから攻撃がくるのは避けたいからだ。
また、複数の手段をとることで、片方が消されても致命的ではないということもある。
デメリットは当然ながら目立つということ。
最後に人を雇ってパーティの人数を増やした。
ひとりでは敵を見つけても、起こしながら応戦するのは難しいが二人ならすこしは楽になる。
また、飛び道具と白兵戦が使える者を組み合わせることで、どちらかが対応できる。
最強をつくるのではなく、強弱を組み合わせて平均的な強さを得られるようにしたい。
デメリットは手間がかかり、人を雇うと金が掛かること。
ま、常に全てに対応できるようにするのは、不可能なのでどこかあきらめる必要がでるのだが。
○襲撃の夜
「はっはー。殲滅完了!」
「まあ、これだけお膳立てしておいて失敗したら笑い事ね」
「消音のまほー、影隠れで偵察して、見張りを眠らせて、寝込み襲って……」
「生き残りが動く前に7割方は戦闘不能にしたわね」
「ねー。ぼくら悪人ぽくない?」
「ま。正義も、まずは勝たないと。余裕でてきたら考えよ」
夜の襲撃に対する備えを考えてきた。
何故、備えるのか。
それはやられると辛いからである。
つまり、夜寝る奴らには夜襲が効く。はずだ。
夜襲のポイントはいかに気づかれないか。
気づかれた時にいかに素早く行動するか。
の2点に絞られる。
気づかれないようにするために、気づかれる要素を考えてみる。
音がまずひとつ、次に目に留まること、あとは臭いなども考えられる。
音を隠す方法は、音を身のこなしや魔法などで消す、他の音でかき消すなどが考えられる。
身のこなしで消すには訓練が必要で、魔法はそのような用途の魔法がなくてはならない。
次に気づかれた場合にどうするか。
声を上げる前に倒せればいいが、そうできない場合。
話術、魔法等々、とにかくごまかすというのも一つ。
そして、もう一つ、一気に攻め込んでしまうのも手だ。
気づかれてしまったものの、まだ準備はととのっていない。
ならばその間に……ということである。
まあ、どちらにしろ、やりすぎるとお互い大変なのでほどほどに。
○安心の夜
「おお。一月ぶりの街だ」
「ハムにシチュー、エール……」
「夜に見張りを立てなくてもいいのは楽ね」
「まあ、まだ狙われているかもしれないけどな」
「例の敵討ち? いいかげんどうにかしなさいよ」
「とりあえず、良さそうな宿きめよー」
街の宿で夜を過ごせば、用意された寝床で安心していられる……と良いのだけれど。
普通、なんらかの事情がなければ宿で見張り番を立てて交代に休んだりはしないだろう。
街はあくまでも、冒険のあいまに休むところであり、危険な場所ではない。
だが、襲われるようなトラブルを抱えている場合は別だ。
同じ冒険者とのトラブル、ライバルや敵討ち、貴重品を狙う盗賊など、
さまざまなものが考えられる。
とはいえ、野外に比べてその危険は少ないといえるのだが。
羽目の外しすぎはご用心。
○応用の夜
「このへん夜は死霊がでるらしい」
「危険だねえ」
「あまりお相手したくはないわね」
「というわけで、手前まで引き返そう」
「あの山小屋まで?」
「あ。それなら一気に……」
そう。危険な場所でわざわざ野営をする必要はない。
移動できる範囲にもっと安全な場所があるのなら、そっちで野営するべきなのだ。
※このお話はフィクションです。
※著者によって、さまざまな誇張、追加、編集がおこなわれています。
※こんなことばかりしている訳ではありません。