シナリオ「日シナの理緒ちゃん」11
1.
天井の高い、大きな部屋。疲れた様子の理緒がテーブルの上の資料を片付けている。彼女の友人が話しかける――
まどか「で、どうよ。『コンベンションあらし』を相手にした感想は、さ」
理緒「さっきのアポロキャップの人の事?」
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2.
まどか「伝説の人だよん。悪辣なクエストも卑怯なトラップも、もちろん強力なモンスターも、鋭い直感と嘘みたいな出目とで突破し続けた、って言う」
理緒「まあ、まれにそういう人もいるよね」
まどか「あんまり出目が良い方に偏るんで置きサイ疑惑が出てから、宙返りしながらダイスを投げるってパフォーマンスをするようになったんだってさ。今日もやってたでしょ?」
理緒「……やっていたね、確かに」
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3
まどか「設定に凝ってるほど、伏線が微妙なほど、あっさり見破られちゃったせいで、立ち直れなくなったマスターもいたんだってさ。今日はあんまり冴えたところを見れなかったけど、単純なストーリーだったの?」
理緒「60年の実績がある日シナのマスタリング講座に賭けて、練りに練ったシナリオを準備していたわよ」
まどかに、細かく書き込まれたA4のレポート用紙2枚を掲げてみせる理緒。
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4.
理緒「日シナのマスタリング講座なら、先生方の親切ていねいな指導のおかげで、必要な情報を過不足なく物語に盛りこむ技術が、誰でも確実に身につくわ」
まどか「凝りすぎないのと適当なのとは、別だもんねえ」
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5.
理緒「バインダー式のテキストと実用新案のマスタリング練習器があれば、設定や伏線をプレーヤーに伝えるコツを覚えられるまで、何度でも訓練することが可能なの」
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6.
理緒「1日20分の練習を続けるだけで、シナリオ検定にも楽々合格。シナリオ1級の合格者の9割以上が、日シナの出身なんですって」
まどか「まさに完璧って感じがするね」
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7.
まどか「でも、それだけ好環境が整ってて、なんで今日の『コンベンションあらし』はあんなに不調だったのか知らん」
理緒「実は、私のほうもあんまり調子が良くなかったの。びっくりしてたせいで……」
次に来るコマ(8)を、理緒の回想として表現する。
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8.
バックは黒。イナズマフラッシュを適度に。
あらし「十文字月面宙返り2d6(クロスムーンサルト・ニディーロク)っ!」
中央に足を上にむける形で宙に浮かぶコンベンションあらし。目が理緒のほうを向いて強く輝く。
理緒「おっとっと」
マスタースクリーンの陰に広げた資料の上に、慌てて身をかぶせる理緒。
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9.
回想が終った、という表現。
理緒「彼がジャンプするたび、データを覗きこまれそうな気がして」
目を閉じ、力無く話す理緒。
まどか「……あいつ、実際覗いてたんじゃなかろうか、今までずっと」
険しい顔のまどか。
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