対決
――対決。
なんとも魅惑的な言葉である。ゲーマたる者この言葉にそそられないことは無いだろう。
雄々しき軍馬に跨り、ランスを構え、互いの名誉を競うジョウスト。
サーベルを片手に、華麗に舞う貴族同士の決闘。
突然酒場で始まった、腕っこき達の喧嘩。
大声で名乗りを上げ、戦場のまっただ中で始まる一騎討ち。
ひとえに対決といっても様々な形式がある。
当然、TRPGにも対決は付き物だ。
私は、対決というと、いつもあるセッションを思い出す――
いつものようにダンジョン探索をしているとき、突然現われた「試練の間」。そこには4つの扉があり、それぞれには「戦士の試練」「盗賊の試練」「魔術師の試練」「僧侶の試練」と書かれていた。
戦士である彼は、迷わず「戦士の試練」と書かれた扉に向かい、扉を開けようした。
が、開かない。
途轍もなく扉が重いのである。既に試練は開始されていた。
なんとか扉を開け、中にはいると、そこは横長の長方形の部屋で左奥には小さな部屋があった。
それだけではない、左奥の部屋にはなんと、ビホルダが鎮座在していたのだ!
ビホルダと言えば10レベルを超えたキャラクタ達がパーティ総掛かりで戦っても、非常に苦戦するモンスタである。しかもその時の彼のレベルは8。
とてもではないが、勝ち目はない。
自分が入ってきた扉を振り向く戦士。しかし無情にも、扉は跡形もなく消え去り前に進む以外に彼には道が残されていなかった。
覚悟を決めて、もう再度周囲を確認してみると、ビホルダに続く道は逆向きに動くベルトコンベアになっており、そのベルトコンベアの先には底の見えない漆黒の穴が広がっていた。
助かる道は目玉の暴君を倒す以外にない。
決死の突撃を試みる戦士。その顔には悲壮な決意が秘められている様にさえ思えた。
容赦無く発射されるビホルダの光線攻撃。スリープ、チャーム、ディスインテグレート、フレッシュ・トゥ・ストーン。
それらに悉く耐え、ついに暴君に一撃を加える戦士。
どうせ死ぬならば道連れよ、と更なる光線の脅威に身を晒しながら持てる力の全てを振り絞って、目玉の怪異を全力で攻撃する。
猛き者も遂には亡びぬ、偏に風の前の塵に同じ。
目玉の暴君は、その恐るべき主眼を開かなかったかもしれない、彼は数々の幸運に見舞われたかもしれない、それでも戦士は生き残り、悪鬼の死骸を前に勝ち鬨を上げた。
彼はビホルダに勝利したのだろうか、己に打ち克ったのだろうか。
私はそう思わない、彼は横暴なDMに勝ったのだ!
今は昔の物語である。