ホラーものを楽しむための追加項目
「ホラーものを楽しむための5項目」ではプレイヤー向けの小技をいくつか簡単に書いてみました。そこで今度はマスター向けの小技を書いてみたいと思い ます。
まずは「『PL向け』恐怖の与え方」を読もう
当初は全般的な話を書こうと思ってたんですけど、すでにこの分野は白兵衛氏が素晴らしいアプローチで書き上げてしまっているのです。というわけで、全般的なお話はそちらをお読みください。
んで、こっちはひたすらに「ホラーもののための描写術」に拘ってみました。
ゲームに関する描写、フレーバーに関する描写
描写について考えるにあたって、マスタリングでの描写における二つの側面について触れておきましょう。
マスタリングにおける描写には以下の二つの効果があります。
1. セッションを進行する上で有用な情報を提供する (インフォメーション)
2. セッションの進行上は必須ではないが臨場感を高める (フレーバー)
ほとんどの描写は両方の効果を併せ持つものです。が、もたらす効果のバランス、ひいては用途によって「インフォメーション型」「フレーバー型」「バランス型」の3種類に大別できます。
描写術の第一歩は、マスタとして行わなければならない描写が3種類のうちのどれに分類されるものかを意識することです。
描写されるものの種類
次に「描写されるもの」について考えてみましょう。
描写というのは、その場に居るキャラクターが感じた場面の様子をプレイヤーに伝えることですから、描写されるものはキャラクターの感覚に依存します。
# 「神の視点」での描写を加えることもありますが、例外とします。
つまるところ、プレイヤーが人間で、キャラクターが通常の人型生物であれば
「描写されるもの」は視覚/聴覚/嗅覚/味覚/触覚の、いわゆる「五感」に大別できるということです。
なぜこのような区別をするかというと、これらを意識することで恐怖へいたる違和感を操れるようになるからです。
あるはずのものがない恐怖、ないはずのものがある恐怖
日常生活の中で「ひとつの感覚にしか訴えない」ものは稀で、大抵のものは複数の感覚を通じて認識されているのです。
視覚がある情報を捉えたら、同時にその他の感覚にも関連するものがもたらされる……それが我々の生活する世界の日常的なありようといえます。
そして、その調和が崩れるとき─あるはずのものがない、ないはずのものがあるとき、人は違和感を感じます。この違和感が積み重なり、不安を巻き込めばやがて恐怖へと発達していきます。
で、以降は五感をつうじた描写について、あれこれまとめてみました。
触覚(皮膚感覚)
皮膚感覚を基盤とした描写には大別して以下の3つがあります。
(1) 皮膚が感じるもの(大気)
(2) 足裏が感じるもの(大地)
(3) 指先などが感じるもの
大気に関する内容としては寒暖や乾湿があります。さらにホラーものの場合は
「悪寒」も皮膚の感じる漠然とした情報として使うことができるでしょう。大気といっていますが、液体などに飛び込んだ状態での描写もこれに準じます。
大地については、足場の固さや傾斜、振動の有無などがあげられます。また、
「重力の強さ」も入れることができるかもしれません。
指先などが感じるものも、物質固有の感触以外にも、熱や冷気、痛みなどの情報を付加することができます。
嗅覚と味覚
嗅覚と味覚は関連性が高いので同時に扱うことにしましょう。これらは「味」として連想されやすいため、非常に強烈な印象を与えます。
抽象化された味としては、甘い/酸っぱい/塩辛い/苦い/辛いがあります。これよりも若干具体的な物には鉄(血)や磯(潮)、腐敗などがあげられるでしょう。
ほかにも「柑橘類のような」といった風に、具体的な食品の名前を使うことでさまざまな描写をすることが可能になります。
# 苦虫を噛み潰したような味、とか。ま、苦虫が食品かどうかは謎ですが。
聴覚
音に関する描写方法は以下の3パターンがあります。
(1) 擬音語・擬態語
(2) 比喩表現 (AがBしたような音)
(3) 直接表現 (CがDをしている音)
擬音語・擬態語はマンガなどで(やや独特ですが)見られるものなので、意識してないものの、意外と身についているものです。また、辞典などもあります。
一方で比喩表現・直接表現は意識的に拾い集めることになります。
また聴覚の異常として「幻聴」「耳鳴り」があります。
視覚
視覚に関する描写では以下の5項目を示すことができます。
(1) 形状
(2) 色彩
(3) 明暗
(4) 遠近
(5) 広狭
大半がインフォメーションに関するものですが、狭さや色彩が精神にもたらす影響を示することで、フレーバー的な効果も得ることができます。
描写は視覚情報を後回しにする
最後に描写に関するちょっとした小技を紹介して終わりにしたいと思います。
それは「視覚に関する描写はできるだけ後半に回す」というもの。ホラーものに限らず、描写に気合をいれるときはこの方が経験的に上手くいくのです。
原理は不明なんですけど、おおよそ以下のようにイメージしてます。
(1) インフォメーションを得ると一部プレイヤーはそれに基づく思考を開始して、その後のフレーバーの効果が薄まってしまう。これを防止する。
(2) 視覚以外の描写によってプレイヤー内で視覚情報に関する予見(期待)が生まれ、その後の描写への関心度合いが強まる。
よかったらちょっと使ってみてくださいませ。
本稿はこれにて終了です。拙い文章にお付き合いいただき感謝。草葉の陰よりみなさまの良い怪談をお祈りしております。それでは、また~。