日シナの理緒ちゃんは今月はお休みです
1.
画面右方向から歩いてきた敬一郎が、画面奥がわにある大きな掲示板に目を向けている。掲示板には大きな告知が1枚張ってある――
告知「『日シナの理緒ちゃん』は今月はお休みです」
「今月、椎名理緒さんは60年の実績を誇る日シナ主催のシナリオ検定1級の……」
告知の後半は画面に収まらず、途切れている。
2.
歩きながら掲示板の告知を読み進む敬一郎。
告知「……60回目の受験に挑戦するために、試験会場に行っています」
敬一郎「ふーん。60年目で59回失敗してるのか。ずいぶん難しい資格なんだな」
告知「今年こそは良い結果を残せたことを発表できると思います。来月をお楽しみに」
画面右、彼と同じように掲示板を読み進む一人の女性。
3.
敬一郎の後ろに付いて来た態の女性が、感想を言う。
理緒「こんなデマ流してるの、いったい誰なの」
敬一郎「あれ、理緒ちゃん。シナリオ検定はどうしたの?」
理緒「信じないでよ、こんなの」
4.
理緒「経験豊富な先生方を多数擁する『日シナのマスタリング講座』は、全てのゲームマスター志願者の味方です。何度も連続でシナリオ検定を落させるような事を、するはずがありません」
敬一郎「そう言えばそうか。やっても身に付かないのなら、指導していることにはならないもんな」
理緒「60年の実績は、伊達じゃあないんですよ」
5.
理緒「バインダー式で扱いやすいテキストと、実用新案のマスタリング練習機を使えば、自分の欠点を見つけて、それを補いながら、シナリオ検定への対策を進めることもカンタンなの」
6.
理緒「1日20分の練習を続けるだけで、シナリオ検定にも楽々合格。シナリオ1級の合格者の9割以上が、日シナの出身なんだもんね」
敬一郎「俗に『継続は力なり』と言うし」
理緒「そう、それそれ」
7.
理緒「惰性でもマンネリでも今まで続けてきた『日シナの理緒ちゃん』だもの、いまさら中断だなんて出来ない相談よ」
敬一郎「良かった。じゃあ今月も休載はしないんだね」
8.
理緒「いや、お休みするのは本当」
敬一郎「……どうしてさ」
9.
理緒「惰性とマンネリだけで今まで続けてきた事を反省して、この機会に今後の方針をゆっくり考えてみようと思うの。ごめんね」
敬一郎「無理に休まなくてもいいじゃん」