シナリオ「日シナの理緒ちゃん」15-2
1.
理緒「前回のあらすじ。友人の一人がコンベンション直前、書き置きを残して失踪しました」
なずな「まったく迷惑にも程があるわ。責任感があれば、作りかけのシナリオを放りだして逃げだすなんて事、出来ないはずよ」
美和「……しくしくしく」
2.
理緒「?」
なずな「…………」
テーブルの下を覗き込むなずなと理緒。膝を抱えて泣いている美和。
美和「……絶対に間に合うんだって自信は持ってて、資料も充分あって、昨日まではアイデアもどんどん沸きだしてて……」
3.
美和「だけどまとめる段階になって、アイデアがどうしても噛み合わなくて、何度書きなおしてもしっくりこなくて、時間がどんどん過ぎて、どうしたらいいのか全然判らなくて、でも辞めてしまう勇気もなくて……」
なずな「完全に煮詰っちゃってるな」
理緒「私も、日シナのマスタリング講座で教わった範囲で手を貸すから、もう少しだけ頑張ろ、ね?」
テーブルの下から美和を抱き起こす、なずなと理緒。
4.
理緒「60年の実績を誇る日シナのマスタリング講座は、経験豊富で信頼のおける先生方が、やる気を無駄にしないでシナリオを完成させる力が身に付くよう、懇切ていねいに指導をしてくださるのよ」
美和「そう、やる気はあったのよ。絶対完成させるつもりでいたんだから」
なずな「うんうん。判ったから。責任感が無いような事を言って悪かったわよ」
5.
理緒「バインダー式のテキストと実用新案のマスタリング練習器で繰り返し練習すれば、発想のどれを活かしてどれを捨てるか、楽に見極めがつくようになるのよ」
なずな「幸いと言うか、充分なアイデアは出ているみたいじゃない。整理すればすぐに見通しはつくよ」
美和「……うん」
6.
理緒「1日20分の練習を続けるだけで、シナリオ検定にも楽々合格。シナリオ1級合格者の9割以上が日シナの出身なのよ」
美和「そんなふうに毎日ちょっとづつでも作業を続けてれば、ここまで追い詰められなくて済んだかも知れないのに……」
なずな「まだ時間が無くなったわけじゃないってば。絶対明日までに完成させようよ」
7.
美和「最初に提示した情報がこうだから、話の分岐点をこのへんに置いて……」
理緒「それだと、このアイデアをその直前で情報として出しておけば……」
なずな「分岐点までに出すべき情報は、これも必要で、こっちはもう少し後回しにすれば……」
美和の意見を聞き出しながら、なずなと2人でシナリオを形作ってゆく理緒。
8.
なずな「……で、ここをこうすることで、完成……かな?」
理緒「完成した?」
美和「完成……うん完成だ。あはは完成した完成した、あんなに悩んでたのが嘘みたいだ、ははははは」
なずな「って、立ち直り早っ」
9.
美和「うん、もうばっちり。明日のコンベンションも成功間違いなしよねー」
なずな「すっかり、いつも通りだな」
理緒「いつも通りって……」
序盤の様子が嘘のように、朗らかに振舞う美和。呆れるなずな、そして物問いたげな理緒。
理緒「……案外いつも同じ様に煮詰まってるんじゃないだろうな」