シナリオ「日シナの理緒ちゃん」22
1.
調度が見えない程に薄暗いホテルの一室。身なりの良い数人の男女が、蝋燭を灯した丸いテーブルを囲んで座っている――
理緒「変だな。最初聞いていた人数より、一人多い」
加代子「それに、なんか雰囲気作り過ぎって感じ。趣味悪い」
同席者たち「…………」
理緒「まあ、どうにかしよう。――お集まりの皆様、お待たせしました」
2.
理緒「これよりセッションを開始致します。メインは椎名理緒、サブは蕪木加代子と言います」
同席者たち「……?」
加代子「データ類配布します。椎名の説明を聞きながらでも構いませんので、目を通しておいて下さい」
3.
促されるままに資料に目を通し始める同席者たち。時折、互いを見やって不思議そうな顔をする。
加代子「なんか、反応の薄いプレーヤー達ねえ。盛り上がるかどうか心配だわ」
理緒に囁く加代子。
理緒「最初はノリが悪いプレーヤー達を盛り上がる方向に誘導したいのなら、日シナのマスタリング講座がお勧めよ」
加代子に囁き返す理緒。
4.
加代子「マスタリング講座?」
理緒「60年の実績がある日シナのマスタリング講座なら、プレーヤーの気持ちを掴むマスタリング技術を、超一流の先生方が親切ていねいに指導して下さるわ」
同席者たち「…………」
背景に、資料の黙読を続ける同席者たち。
5.
理緒「バインダー式で扱いやすいテキストと、実用新案のマスタリング練習機があれば、プレーヤーに対するときの技術が日増しに上達していることが実感できて素的なのよ」 加代子「ふむふむ」
同席者たち「……?」
資料を黙読しながら、首を傾げる同席者たち。
6.
理緒「1日20分の練習を続けるだけで、シナリオ検定にも楽々合格。シナリオ1級の合格者の9割以上が、日シナの出身なんですって」
加代子「うん、雰囲気悪いからって、GMのほうがうろたえてちゃ話にならないね。私も始めてみよう……ん?」
同席者たち「!?」
入口のドアが開く。同席者たちが皆、そちらの方を見つめる。
7.
乱入者「全員、その場を動かないで下さい。逮捕します」
顔を青くする同席者たち、そして理緒と加代子。
乱入者の背後から何人もの武装した警官が入ってくる。
8.
ホテルの廊下を引き立てられて行く理緒たち。
加代子「い、いったいなぜ?」
理緒「この国ではいつからTRPGすることが犯罪になったのよーっ」
別の部屋の扉が開き、少女が顔を出す。
忍 「何事ですか、騒々しい。あら?」
ののみ「んにゅ? どうかしたのね、理緒ちゃん」
9.
加代子「えええ? セッション会場は、この隣の部屋だったの?」
忍 「予定時刻を過ぎても連絡が無い所へ、部屋に来た警察が隣室の犯罪グループについて説明をしたので、心配していたのですよ」
本来のメンバーの一人、忍から事情を聞いて驚く加代子、得心した表情の理緒。
理緒「セッションするつもりのない人達だったのか。どうりで様子がおかしいと思った」
ののみ「……全然気付かない理緒ちゃんのほうが、犯罪グループよりもずーっと怖いにゅ」
呆れるののみ。