シナリオ「日シナの理緒ちゃん」24
1.
松雄 「連続発生する台風、頻発する地震。今ほど災害対策への理解が求められている時期は無いと言える」
喜多田「今回の会議は、『天災による被害の防止』を目的とした説明会を開くにあたり、具体的なプログラムを作成することを目的としておりますです」
理緒 「私はただのお茶汲みのバイトとして、たまたまこの場所に居合せました」
松雄 「……何を言っとるんだ君は」
2.
松雄 「『椎名理緒』くん、というのか」
理緒のエプロンの胸についた名札を見る松雄。
松雄 「災害発生の折、まず持ちだすべきものは何かというアンケートに『TRPGのルールブック』と回答したのは、君かい?」
理緒 「え? なんでそんな細かいことを覚えてるんですか」
喜多田「あのアンケートの結果を、いかに我々が真剣に分析いたしましたか、その一面が現れたという訳です」
松雄 「余りに頭の悪い回答だったからだ」
3.
松雄 「アンケートの結果を見るまでもなく、災害発生した時の人々の反応が様々なのは確かだ」
喜多田「災害に起因する危険およびその対処法もまた、多岐に渡りますから、それらを短時間の会合で衆目に理解徹底させるのは、極めて困難だと言えますです」
理緒 「入り組んだ状況を相手に効率良く説明できるようになりたいなら、60年の実績を誇る『日シナのマスタリング講座』がお勧めですよ」
松雄 「……『マスタリング講座』?」
4.
理緒 「日シナのマスタリング講座なら、マスタリングにかけては超一流の先生方が、状況説明の手順やポイントを一つ一つ、親切ていねいに指導して下さるの」
喜多田「それは、来る会合当日において、確かに必要とされている技術ではありますですね」
5.
理緒 「バインダー式で扱いやすいテキストと、実用新案のマスタリング練習機があれば、プレーヤー達に情報を伝えるための実践的な練習も、一人でらくらくこなすことができるの」
松雄 「初期状況だけでなく、最新のニュースを伝えるのにも応用できそうだな」
6.
理緒 「1日20分の練習を続けるだけで、シナリオ検定にも楽々合格。シナリオ1級の合格者の9割以上が、日シナの出身なんですって」
喜多田「こうして考えると、TRPGのように説明できれば、ある意味理想的でございますですね」
松雄 「うん、TRPG、か……」
7.
説明会当日。
参加者1「え、災害を題材にしたライブRPG? 説明会じゃなくて?」
参加者2「なんでも、色々な状況を体験してもらうために、特別に企画されたんだそうだよ」
理緒 「私はたまたま、会場コンパニオンとして活動することになりました」
参加者1「誰に話してるの、あなた」
8.
理緒 「さすがにライブRPGという手法は皆さんに馴染みが薄いと思うので、参加者に混じってサポートします。わかんない事があったら聞いてね」
参加者1「あ、そうなんだ……って、もう最初のターンだ」
参加者2「うわ、何か急いで行動しないと、えーとえーと」
理緒 「……がんばってねー」
9.
マイクによるアナウンス。
喜多田『椎名理緒くん、行動が遅れたから、負傷でございますです。すぐに負傷者エリアに引っ込んで下さいませ』
理緒 「え? スタッフでも見境無しに判定するの?」
松雄 『……災害とは、そういったものだよ』