夜長に読書を一つ:ユング心理学入門
第一回 ユング心理学入門 お話やキャラクターの参考に
おはようございます。いつもお世話になっております、桜井@猫丸屋です。(←オトナ語の謎風)
折りと時間を見つけてTRPGのための読書案内などをさせてもらえればということで、書かせて頂いたのがこの記事『夜長に読書を一つ』。
できればコツコツと、ボクの薄っぺらな読書歴を上手く隠しつつTRPGに直接関係しにくい方向から続けていければ、と思っております。(まぁ、これくらいの短い記事ならコンスタントに書けるだろうとオトナな計算が働いた次第なわけですが、それは触れない方がお互いハッピーかと)
そんなわけで今回の一冊。
唐突ですが、TRPGを遊んでおられる皆様の中には、お話やキャラクターを作るのに悩んだ事のある方は多いのではないでしょうか? 特に長く続けてきた方ほど。
で、そんなとき誰もが思うはずです。
「あーあ、話(キャラクター)が勝手にできねーかなぁ」
もちろん、世の中そんな美味しい話はないわけでして。もし、できてしまえば締め切り間際に苦しむ小説家も、魅力的なキャラクターを思いつかずに苦しむ漫画家も世の中から絶滅してしまう道理です。
ところが、これを私は見つけてしまいました──なんて話なら、記事も派手になるわけですが、やっぱりそうは行きません。
で、代わりといってはなんですが、勝手にできるとは言わないまでも、幾らかお手伝いになる方法論のご紹介。今回のネタ本であります『ユング心理学入門』であります。
「は?」
はいはい。ご存知ないわけですね。そもそもユング心理学とは何ぞやと申しますと──
「や、知ってる。あのオカルトチックな雰囲気漂うヤツでしょ? イマドキ、まともな心理学者なら相手しないような」
はぁ、なるほど。ご存知でしたか。
確かに科学ではなく文学か宗教の類であって、心理学ではない仰る方は多数おられるようですね。ただ、その一方で、カウンセリングの基礎理論・手法として現場で治療に当たる方々も多いわけですが。
まぁ、あまり一方の立場に寄った紹介はよしましょう。そもそもこの記事の意図から外れますし、ボク自身も門外漢ですからどうこう言える立場じゃありませんし。
で、ここでわざわざ取り上げた理由。
ユング心理学と言えば、無意識の階層化(個人的無意識と普遍的無意識),タイプ論(性格の分類方法),元型論(人の無意識に現れるものの型),神話,昔話への積極的な接近などユニークな特徴が幾つかございます。
この中でも特に推したいのが元型論。
元型論というのは、乱暴に誤解を恐れない要約をすれば『人の無意識が夢や物語の中で形をあらわす時、各個人が見るものを分類・整理すると共通の型(これを元型/アーキタイプと呼びます)がある』と言うものです。
有名なところではペルソナ(仮面/社会的な立ち位置や役割に応えて使い分けられる見せるための自分)やグレートマザー(太母/生み出し育むものでありながら同時に全てを自らの中に留めようとするもの,幼児が母親に抱くイメージの総体),シャドウ(影/本人に意識されない隠されたもしくは未発達な側面,また新たな可能性)などがあります。ユングを知らないけども、この辺の言葉は聞いたことがある──と言う方は多いかもしれません。
ユングは、治療にあたった患者さんの夢や妄想,昔話や神話・伝説を分析・整理していく内に元型論を見出したと言っているわけですが──まぁ、これ以上の細かい話はこの記事の趣旨ではないので省略。
「で、それが何の役に立つのさ?」
はいはい。で、ですねこれがキャラクターを分析したり、逆に設計したりするのに有用なツールなわけです。
なんと言っても、ユング先生が苦労して時間かけて、様々なお話を分析して整理した結果です。
アーキタイプの種類は豊富ですし、それぞれの分類や説明の納得力もあります。(説得力、ではないことに注意)
理論の前提が『共通する型』というところにありますから、一つ一つのアーキタイプの汎用性も十分にあります。さらにアーキタイプそれぞれに、サンプルキャラクター(神話や昔話の登場人物ですが)まで付いているという親切設計。
アーキタイプから好みのものを選択して(或いは幾つかを組み合わせたりして)、そのゲームにふさわしい味付けと、プラスワンくらいのアイディアを乗せればアッと言う間にキャラクターの設定が完了。もう悩むところはプラスワンのアイディア部分のみ。
セッション中のキャラクターハンドリングはアーキタイプ毎にふさわしい振る舞いが規定されてますので、それを参考にすれば万事OK──もちろん、あなたのキャラクターはアーキタイプそのものではありませんから、必要以上に囚われる必要もありません。
さらにユング先生の元型論、キャラクターに留まらないのが偉いところ。
元型論を神話なり昔話なりの物語にフィードバックすることで、お話の構造を分析などもされております。(もちろん心理学的な観点で、その物語がどのような意味を持つのかという意味での分析ですけども)
この分析されて骨組みだけになった物語を頂いてくれば、やっぱりあとはそのゲームにふさわしい味付けとプラスワンのアイディアだけでお話完成。
「へぇ。世の中には美味しい話ってあるんだねぇ」
またTRPGのセッション上で形作られる物語を『キャラクターとその振る舞いの相互作用の結果』と捉えるなら、前述のアーキタイプを配置するだけでオリジナルなお話も楽々設計可能。
なにしろ、アーキタイプの配置と関係を設計しておけばお話の4割はできてしまいます。(残りのうち4割はシステム的にどう表現するかと言う実装の問題,2割はプレイヤーさんが介入する余地ですから、いわゆるシナリオのストーリーという意味ではほとんど完成と言っても良いでしょう)
と、そんなわけで。
ユング心理学はTRPGに間違いなく役立つと主張する次第。
ホントはユング先生ご本人が元型論について書いたその名もズバリ元型論をお勧めしたいところなのですが、なにぶん分厚い本で値も張ります。途中で力尽きる事請け合い(なにしろボク自身もそうでしたから)です。
というわけで、まず今月はソフトな入門編として河合 隼雄氏のユング心理学入門をお勧めさせて頂きます。
さぁ、アナタも明日からキャラクターやお話に悩まない日々をっ!
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ユング心理学入門 (培風社 刊/河合隼雄 著)